不動産小口化商品のマーケティング② 私募REIT vs J-REIT

前回の「不動産小口化商品のマーケティング戦略① ライバルはJ-REIT(上場リート)??」に続き、不動産小口化商品の研究を進めましょう。

「投資家にとって魅力的な商品とは何か?」を考えるためのヒントが詰まった「REIT」

本日は「私募REIT」について見ていきたいと思いますおねがいキラキラ

いま注目を集める 「私募REIT」 とは??

ここ数年、「私募REIT」という不動産小口化商品が人気を集めており、新聞等でその言葉を目にすることが多くなりました。

私募REITとは、J-REITと同様に「投資法人」というビークル(器)を使って組成された永続的な不動産ファンドです。

J-REITと違って証券取引所に上場していない(非上場である)点が特徴です。

従って、一般の個人投資家が目にする機会はあまり多くありません。

私募REITは非上場であるため、次の図表に掲げる3つの点で、J-REITとは商品性が異なります下矢印

①投資口の払戻し

REIT商品は「投資法人」というビークルを使って組成されており、投資法人が発行する持主の権利を「投資口」といいます。

(株式会社の「株式」と同じイメージ)

投資口は「投資証券」という有価証券となり、投資家は「投資証券」を取得することで、投資法人(すなわち、REIT)に投資します。

J-REITと私募REITの大きな違いは、投資口の払戻し(投資法人に投資口を直接買い取ってもらうこと)が可能か否かにあります。

●J-REITは払戻し不可

上場しているJ-REITの場合、投資口の払戻しはできません。

※このような払戻し不可のファンドを「クローズドエンド型」(=出口が閉ざされているから)といいます。

投資法人による払い戻しが行われなくても、上場しているため流動性は確保されています。

投資家はJ-REITの投資証券を証券取引所で売却することで、投資の回収を図ることができます。

パソコンでチャートを見る女性のイラスト

●私募REITは払戻し可

他方、非上場の私募REITは、投資口の払戻しが可能です。※このような払戻し可能なファンドを「オープンエンド型」といいます。

J-REITのように証券取引所で取引を行うことができないので、投資法人による買取が認められているのです。

しかし、不動産という流動性の低い資産を持つREITで、一時期に多額の払戻し請求を受けるとファンドの存続が危ぶまれますキョロキョロ

そこで、多くの私募REITは、1決算期当たり、発行済み投資口の2.5%を払戻しの上限として設定しています。

また、払戻額は、ファンドの時価純資産(REITの持つ不動産を時価に置き換えて算定した純資産額。Net Asset Value(NAV)とも呼ぶ)から、一定の解約手数料(払戻留保金)を減じた額として決定されます。

②流動性

流動性(投資家がスムーズに投資証券を売って換金できること)の観点からは、J-REITの方が優れています。

●J-REITは市場でいつでも換金可

J-REITが上場している証券取引所には、多数の投資家(有価証券を売りたい人/買いたい人)が参加しています。

頻繁に売買されている上場株式やETFと同様ですねピンクハート

そのため、J-REITの投資家は、証券取引所での売却を通じて、投資証券を簡単に換金することができます。

●私募REITは流動性に難あり

他方、私募REITは証券取引所に上場していないため、換金したい場合は、投資法人による払戻しか相対での売却のいずれかを選択します。

私募REITの場合、払戻しが一般的に選択されます。

しかし、払戻しには一定の上限(発行済み投資口の2.5%)があるため、例えば金融危機等が起きて払戻し請求が殺到した時には、十分な流動性が確保されませんアセアセ

また、そのようなケースでは、相対での売却(直接買主を見つけてきて、投資口を売却すること)も困難です。

この点、上場しているJ-REITであれば、金融危機時等で価格が下落している場合でも、取引所で売却するというEXITが確保されています。

③時価

J-REITは証券取引所で売買される価格(市場価格)が、私募REITはファンドの基準価額(時価純資産)が時価となります。

本来、私募REITも売買される価格(EXIT価格)で評価されるべきですが、J-REITと違い活発な市場で取引されていないため、払戻し価額である「基準価額」を時価とするのが一般的です。

この違いが、投資家から見るJ-REITと私募REITの時価評価に、下図のような違いをもたらします下矢印

J-REITの市場価格の変動を表す「東証REIT指数」は大きく上下しているのに対して、私募REITの基準価額の変動を表す「私募REIT基準価額指数」は、ほぼ直線で右肩上がりになっています。

私募REIT基準価額指数が安定的なのは、REITの基準価額は、投資法人が所有する不動産の時価(鑑定評価額)に基づき算出されるところ、鑑定評価額はJ-REITの市場価格ほど、毎年大きく変動せずに算定されるためですコインたち

なお、2019年7月4日に公表された「時価の算定に関する会計基準」では、金融商品の時価は、次の3つに分類することされました。

(1) レベル 1 のインプット

レベル 1 のインプットとは、時価の算定日において、企業が入手できる活発な市場 における同一の資産又は負債に関する相場価格であり調整されていないものをいう。 当該価格は、時価の最適な根拠を提供するものであり、当該価格が利用できる場合には、原則として、当該価格を調整せずに時価の算定に使用する。

(2) レベル 2 のインプット

レベル 2 のインプットとは、資産又は負債について直接又は間接的に観察可能なイ ンプットのうち、レベル 1 のインプット以外のインプットをいう。

(3) レベル 3 のインプット

レベル 3 のインプットとは、資産又は負債について観察できないインプットをいう。 当該インプットは、関連性のある観察可能なインプットが入手できない場合に用いる。

これをJ-REITと私募REITに当てはめると、それぞれの時価は次のように整理されます。

東証に上場するJ-REITの「市場価格」は、通常、「活発な市場」で付されているため、最も透明性が高い「レベル1」に該当します。

他方、非上場の私募REITの「基準価額」は、REITの持つ不動産の時価(不動産鑑定評価額)に基づき算定されており、不動産鑑定評価額には、CAP-rate、割引率、将来の賃料予測など、市場で観察できないインプットが重要な要素を占めるため、最も透明性が低い「レベル3」に該当します。

すなわち、私募REITの時価は安定していますが、それはクオリティの低い時価(レベル3)が付されている結果であるとも言えます。

商品の魅力では、J-REIT>私募REIT

ここまで、両商品の特徴を比較してきましたが、商品性の観点からは、流動性に勝るJ-REITの方が私募REITよりも優れています。

このところ、私募REITについて誤解を生む主張を良く耳にするので、このブログで正しい情報を整理しようと思います下矢印

誤解を生む主張①: 私募REITは時価が安定しているため、J-REITより、安定した運用ができる

私募REITの時価が安定しているように見えるのは、単に活発な市場で取引されていないためであって、時価として代替的に基準価額(鑑定評価額ベース、新しい会計基準ではレベル3に該当)を使っているからに過ぎません。

私募REITの時価(基準価額)が安定しているのは、J-REITのように透明性の高い市場価格(新しい会計基準ではレベル1に該当)が付されていない結果に過ぎず、投資の本質とは関係がありません。

むしろ、マーケットから導かれる市場価格と、不動産から導かれる基準価額とを比較しながら投資状況を把握できるJ-REITの方が、適切な投資判断(買い増すか、持ち続けるか、売却するか)を行うにあたり適した商品といえます。

誤解を生む主張②: 私募REITは基準価額での払戻しが可能であるため、クローズドエンド型のJ-REITより、安定した換金ができる

確かに、私募REITの投資家は、基準価額を基に投資口の払戻しを受けることができます。

しかし、払戻しには上限が設定されており、金融危機時等、本当に手元流動性が必要になったときに、私募REITは換金できません。

危機時等には、下落した価格であってもEXITの道が残っているJ-REITの方が優れています(売る必要がないなら持ち続ければよいだけです)。

誤解を生む主張③: 価格が日々変動するJ-REITは、安定運用を志向する投資家には適した商品ではない

J-REITは市場価格が日々変動しますが、安定運用を志向する投資家は、J-REITを売らずに持ち続ければよいだけです。

そうすれば、毎年の分配金(インカムゲイン)が得られ、安定運用の目的は達成されます。

誤解を生む主張④: 私募REITや不動産私募ファンドは時価が変動しないから一喜一憂せずにすむ

これは気分の問題に過ぎず、投資家に、保有している投資(及びその裏付けとなる不動産)の価格変動リスクを直視させない不適切な勧誘文句に他なりません。

投資の時価変動から目を背けたい投資家の方々には、本来、適合性の原則により、J-REITや不動産私募ファンドのようなエクイティ型の商品を売ってはいけません。

このように、商品性の観点では、J-REITの方が私募REITよりも優れています。

ではなぜ、私募REITは人気なのでしょうか?

私募REITを買う投資家は誰か!?

ここで、マーケティングの基本である「顧客」の視点に立つと、なぜ私募REITが人気なのか、本当の理由が見えてきます。

私募REITを買う投資家は誰か。

それは・・・ 地方銀行、信用金庫といった地域金融機関や保険会社などの機関投資家です。

地銀や信金などの地域金融機関を例にとると、次のような業種特有の事情が存在します。

①運用対策

マイナス金利が続く状況の中、地域金融機関は、余った資金を運用する必要に迫られています。

地域金融機関の資金運用方法には、大きく「貸出」と「有価証券投資」の2つがありますが、オーバーバンクと言われる厳しい競争環境の中、新たな貸出を行うのは困難なうえ、貸出を実行できたとしても低い金利しか取ることができません。

余った資金の運用先として、J-REIT、私募REIT、上場投資信託(ETF)などのファンド商品(投資信託)が選択肢に上がってきます。

②決算対策

J-REIT、私募REIT、ETF ・・・地域金融機関の決算対策の観点からは、私募REITが最も魅力的と映ります。

●業務純益に算入されるか否か

まず、地域金融機関が意識する財務指標として「業務純益」という、銀行の本業からの稼ぎを表す指標があります。

じつは、株式等の売却益は、業務純益には算入されません。

このため、株価指数連動型のETFなどは、地域金融機関の決算対策として魅力がありません。

他方、J-REITや私募REITといった不動産投資信託の売却益は、業務純益に参入されるため、地域金融機関から好まれます。

●時価の変動性

次に、J-REITと私募REITの時価の変動が焦点となってきます。

前述のとおり、J-REITの時価(市場価格)は大きく変動しますが、私募REITの時価(基準価額)はあまり変動しません。

自己資本を安定させ、かつ将来の売却に向けて安定した含み益を生む投資をしたい地域金融機関は、J-REITより私募REITを選好します。

さらに、私募REITは地域金融機関のリスク管理上、投資パフォーマンスを良く見せる効果があります。

③リスク管理対策

金融機関は、有価証券投資のリスクを管理するため、VAR(Vallue At Risk)といった手法で投資のパフォーマンスを測定しています。

VARは、投資の過去の時価変動データを統計的に分析して、現在の投資から生じる、将来の損失可能性を予測します。

VARから算出される将来の損失可能性を低くしたい地域金融機関は、J-REITよりも時価変動の小さい私募REITを選好します。

このように、純粋に経済合理的な理由ではなく、業界特有ルール(顧客の置かれた状況)に合わせた最適化を図る目的で、私募REITが選ばれているのですダルマ

私募REITから学ぶ不動産私募ファンドのマーケティング

商品性ではJ-REITに劣るものの、私募REITのマーケティングが成功しているのは事実。

この事実は、商品を出発点とする「プロダクト・アウト」ではなく、顧客を出発点とする「マーケット・イン」のマーケティングが有効であることを示唆しています。

例えば、私募REITが人気だからといって、個人投資家向けに売ることは意味がありません。

私募REITを買う機関投資家と同じニーズ(決算対策、リスク管理対策)は、個人投資家には存在しないからです。

いま注目を浴びる、「個人投資家向け不動産クラウドファンディング」のマーケティングでは、個人投資家のニーズから出発して、魅力的な商品に仕立てるべく、「仕入」「加工」「販売」の各段階において、創意工夫を凝らすことが重要となりますビックリマーク

マーケット・インのアプローチで、個人投資家に「ワオ!」と言わせる不動産クラウドファンディング商品を一緒に創っていきましょうおねがいキラキラ

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