「定額で1泊から日本全国住み放題」の”ADDress” 複雑な旅館業法との関係は!?

最近、サブスクリプション型(=利用したい時だけ料金を支払って使用する)と呼ばれる住宅サービスが次々と登場しています。

賃貸入居時の賃貸借契契約の締結・敷金礼金の支払い・家具家電の購入や搬入という労力がなくなり、暮らしや生活スタイルをもっと自由で身軽なものになっていくでしょう。

 

代表的に注目されるサービスはこちら下矢印

株式会社レジデンストーキョーのサブスクリプション型住宅(敷金・保証金・仲介手数料・家具などの初期費用ゼロの賃貸住宅)

OYO LIFE(ホテルのように部屋を選ぶだけ!入退去がスマホで完了する1カ月単位の賃貸住宅)

株式会社ADDress(月4万円で全国住み放題の他拠点住居シェアサービス)

 

このブログでは、「定額で1泊から全国の住居住み放題になる」という画期的なサービスを4月から開始する株式会社ADDressのサービスをご紹介します!

 

「ADDress」のサービス内容とは?

ADDressは、日本・世界中の住宅と宿泊者をマッチングする、Co-Living(コリビング)サービスを謳っており、特徴は次の通りです。

 

・年会費月額4万円で日本全国の拠点に住み放題(スタート11拠点を想定)。

・会費には家具家電、水道光熱費、wifi、アメニティ、共有部の清掃費を含む。

・会員は個人・法人の区別があり、法人会員の従業者は自由に利用できる。

・1個室の連続予約は1週間まで、1度にできる予約の上限日数は14日までとする。

・ベッド所在地での住民票登録可能とする形態もあり。

・施設の家主と利用者(個人会員又は法人会員の従業者)は、賃貸借契約を締結する。

 

ITメディアの紹介記事に、まとめの図表があったので引用させていただきます下矢印

 

ADDressサービスのまとめ

出所:IT Media https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1902/19/news081.html

 

 

人口・世帯数減少で空き家が問題となる一方で、インターネット環境があれば、パソコン1つ持ってどこでも自由に仕事ができる時代。

ADDressのサービスを使えば、住む場所に縛られず、日本全国を転々としながらフリーランス生活ができるかもしれませんルンルン

(カピバラ好き行政書士も、夏は北海道、冬は沖縄といった多地域居住に憧れています照れ

 

しかし、「暮らしに必要なものが全てそろっていて、1泊から宿泊できるなんて、ホテルや民泊みたい!と感じる方も多いはず。

ADDress代表者の佐別当氏は、東洋経済のインタビューで次のように答えています。

 

――そもそもシェアリングエコノミーが普及する中、「住み放題」のサービスがこれまで根付かなかったのはなぜなのでしょう。

法的な問題の複雑さが一因だろう。仮に住み放題が「宿泊」と見なされ、旅館業として許可を取る必要が生じれば、住宅地域で利用できないほか、避難経路を設けるなどの義務が課される。それではやりづらい。私たちはそもそも、旅を提供したいわけではなく、全国を行き来する人を増やしたい。だからこそ賃貸業に当たると考えており、宿泊施設と何が違うのかを弁護士と何度も話し合い、「これでいける」というところまで念入りに法的な準備をしてきた。

 

会員利用者を各拠点に短期滞在させるADDressのサービスは、旅館業に該当しないのか??

多くのブログ読者の方々から寄せられているこの質問。

本ブログでは、カピバラ好き行政書士が、プレス等で入手可能な情報に基づき、複雑な旅館業法の諸論点を解説したいと思いますキラキラ

 

旅館業の定義(4要件)

もし、ADDressが提供するサービスが、旅館業法に規定される「旅館業」に該当する場合は、同法の規制を受けることになります。

(石井くるみ 『民泊のすべて』 大成出版社、2018年、16頁)

 

厚生労働省は、次の4要件を満たす行為は「旅館業」に該当するとの見解を示しています。

 

①施設に利用者の生活の本拠がないこと

②利用者から、宿泊料を受け取ること(有償性)

③宿泊サービスの提供が継続反復的に行われること(継続反復性)

④社会性をもって宿泊サービスを提供していること(社会性)

 

ここで、「宿泊」とは、寝具を使用して施設を利用することをいいます。

 

ADDressの拠点で、滞在者がベッドや布団を使用して施設を利用するのであれば、宿泊サービスが提供されていることになります。

そのうえで、ADDressによる宿泊サービスの提供が、上記4要件を満たす場合、当該宿泊サービスの提供行為は「旅館業」に該当し、旅館業法の規制対象となります。

なお、施設の家主と利用者との間で結ばれる私法上の契約形態(宿泊契約か、賃貸借契約か)は、旅館業の該当有無の判断には影響しません(石井くるみ、前掲書、14頁)

 

それでは、4要件の該当有無について考察していきましょうウインク

 

①施設に利用者の生活の本拠がないこと

施設に利用者の生活の本拠があるか否かは、第一に、施設への滞在期間の長さで判断されます。一般的には、利用者の滞在期間が1ヵ月未満の場合は、施設に利用者の生活の本拠がないとされます(石井くるみ、前掲書、21頁)。

 

ADDressのサービスは、「1個室の連続予約は1週間まで」としており、滞在期間は通常1ヶ月未満と想定されるため、施設に利用者の生活の本拠はない(すなわち、旅館業の要件①に該当する)と判断される可能性があります。

 

なお、形式的な住民票登録をもって、生活の本拠があるという主張は困難と考えられます。仮にある施設で住民票登録を行うことが可能であったとしても、当該施設に短期的にしか滞在しないような場合や、住民票を短期間で移しながら生活する場合は、実態として、当該住民票の所在地に生活の本拠は存在しないと判断されるでしょう。

 

②利用者から、宿泊料を受け取ること(有償性)

厚生労働省の見解によると、「宿泊料」には、名目だけでなく、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされる、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費などが含まれるとされています(民泊サービスと旅館業法に関するQ&A Q9)。

 

ADDressのサービスは、「年会費月額4万円で日本全国の拠点に住み放題」としており、利用者は、1回1回の施設の利用に対して、宿泊料は支払っていないように見えます。しかし、厚生労働省が示す「実質的」な判断に照らすと、年会費(月額4万円)が施設で提供される宿泊サービスの対価に該当する(すなわち、旅館業の要件②に該当する)と判断される可能性があります。

 

なお、もしADDress会員に対して施設を提供する家主が、ADDressから一切の報酬を受け取らず、完全なボランティアとして利用者に宿泊サービスを提供していれば、「宿泊料」を受け取っていないとして、当該宿泊サービスの提供は旅館業に該当しないことになります。

 

③宿泊サービスの提供が継続反復的に行われること(継続反復性)

旅館業の判断における「継続反復性」とは、公衆衛生の向上及び増進という旅館業法の趣旨に鑑み、宿泊者の入れ替わりが起きる態様で宿泊サービスを提供することをいいます(石井くるみ、前掲書、20頁)。

 

ADDressのサービスは、個人会員や法人会員の従業員が自由に施設を利用できることから、宿泊者の入れ替わりが起きる態様に該当する(すなわち、旅館業の要件③に該当する)と判断される可能性があります。

 

もし仮に要件①②③に該当すると判断された場合、最後の「社会性」の要件も該当すれば、ADDressのサービスは旅館業に該当することになります。

 

④社会性をもって宿泊サービスを提供していること(社会性)

厚生労働省の見解によると、「社会性をもって」とは、社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるものであり、一般的には、知人・友人を宿泊させる場合は、「社会性をもって」には当たらないとしています(民泊サービスと旅館業法に関するQ&A Q5)。

 

すなわち、親戚や友人を自宅等に泊めるといった、プライベートな行為として提供される宿泊サービスは、社会性がないため、旅館業の対象から除外されます。

ここで、ADDressのサービスは、特定された会員にのみ提供する(すなわち、不特定多数に宿泊サービスを提供しない)ため、「社会性をもって」には該当しないとする説も考えられます。

しかし、厚生労働省が昭和27年に発出した通知「旅館業法に関する疑義について」(広公第四七三号)には、次のとおり、特定人を対象とする宿泊施設又は社会事業的な宿泊施設も、旅館業法の規制対象となる旨が示されています。

 

(昭和二七年一〇月六日)

(広公第四七三号)

(厚生省環境衛生部長あて広島県衛生部長照会)

 

標記の件左記事項について疑義がありますので至急御回答賜わりたくお願い致します。

(中略)

3 厚生省公衆衛生局長通牒「公衆浴場法等の営業関係法律中の「業として」の解釈について(昭和二十四年十月十七日衛発第一、○四八号各都道府県知事宛中)三、旅館業法について」によれば「会社、工場等の寮(但し、労働基準法の対象となるものを除く。)会員制度の宿泊施設その他特定人を対象とする宿泊施設又は社会事業的な宿泊施設」も法の適用を受けることとなるとあるが、次に掲げる施設はこれら一連の施設として法の適用を受けるものと解してよろしいか。

(1) 各種の学校寄宿舎で実費程度の食事代以外に食費又はこれに類するものを受けているもの。

(2) 官公署、事業場等の福利厚生施設(保養所等の名称の如何を問わない。)で、実費程度の食事代以外は宿泊料又はこれに類するものを受けて特定人を宿泊させるもの。

(3) 健康保険法第二十三条の規定による施設(保養所等の名称の如何を問わない。)で、実費程度の食事代以外に宿泊料又はこれに類するものを受けて特定人を宿泊させるもの。

(中略)

(昭和二七年一○月二九日 衛環第九二号)

(広島県衛生部長あて厚生省環境衛生課長回答)

十月六日広公第四七三号で照会された右のことについては左記のとおり回答する。

3 昭和二十五年四月二十六日衛発第三五八号公衆衛生局長より各都道府県知事宛通牒「営業三法の運用について」中二、旅館業法について、により、さきに通牒した〔公衆浴場法等の営業関係法律中の「業として」の解釈について〕中、三、旅館業法について、を改正し、その取扱が宿泊料又は室料を受けて人を宿泊させる施設のみに限定すべきこととしたのであるが、食費の実費程度以上のものをとつている照会の如き場合は当然法の適用を受けるものである。

(略)

 

混同しやすい例として、宅地建物取引業法では「特定多数」と対象とする取引は『業』に当たらないと解釈されるのが一般的ですが、旅館業法の行政解釈では「特定多数」に提供する宿泊サービスも『営業』に当たるという点には、十分な注意が必要ですねキョロキョロ

 

ADDressのサービスは会員という特定人に限定して提供されますが、「特定多数」か「不特定多数」かは、旅館業の判断における「社会性」の有無とは関係ありません。

むしろ、ADDressの提供する宿泊サービスが、社会通念上、個人生活上の行為(例:プライベートで親戚や友人に宿を提供する行為)として行われる範囲を超える行為として行われるものである場合には、「社会性をもって」に該当する(すなわち、旅館業の要件④に該当する)と判断される可能性があります。

 

結局のところ、旅館業の該当性の判断は極めて複雑であるため、各事業者と担当の行政庁の入念な話し合いのもと、個別物件ごとに、旅館業法に基づく許可が必要か否かを判断する必要があると言えるでしょうダルマ

 

宿泊事業者規制の一本化・簡素化の必要性

実際の旅館業法の適用有無は、事業者及び行政庁がそれぞれの判断に基づき決定するものであるため、カピバラ好き行政書士がこれ以上の考察を行うのは差し控えますが、ADDress代表者の佐別当氏が指摘するとおり、旅館業法等の複雑さが、シェアリング・エコノミーの普及を阻害している点は否めないと思います。

 

今後、ADDressのような画期的なサービスの普及を後押しするため、旅館業法、特区民泊、住宅宿泊事業法といった宿泊事業者規制を一本化し、規制をシンプルにすることが重要と感じています!

本ブログの検討を通じて、旅館業法の複雑さと、将来のルール一本化・簡素化の必要性を読者の皆様に感じてもらえたなら幸いですおねがいキラキラ

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