
さて、前回の記事の続きとして、「商品性ではJ-REITに劣るのに、なぜ私募REITが人気なのか??」を解説します
注:前回の記事はこちら
近年、急成長の私募REIT市場・・・・その理由は
まず、前回のおさらいも兼ねて、日本の私募REITの運用資産残高がどれだけ成長しているかを見てみましょう
出所:三井住友トラスト基礎研究所「非上場オープン・エンド型不動産投資法人」基準価額の推移と投資家マインドに関する考察
私募REITの資産規模はいまや3兆円に達していると言われ、2023年には5.7兆円にまで成長する予測されています
私募REITの運用資産残高が増加するということは、それだけ投資家が私募REITの投資証券を購入しているということ。
なぜこんなにも、私募REITは買われているのでしょうか
いったい誰(どのような投資家)が私募REITを買っているのか
マーケティングの基本である「顧客」の視点に立つと、なぜ私募REITが買われているのか、本当の理由が見えてきます。
私募REITを買う投資家は誰か。
それは・・・ 地方銀行、信用金庫といった地域金融機関や保険会社などの機関投資家です
地域金融機関を例にとると、地銀や信金が私募REITを買うのには、次のような業種特有の事情が存在します。
①運用対策
マイナス金利が続く状況の中、地域金融機関は、余った資金を運用する必要に迫られています。
私達(個人)は、会社からのお給料などをせっせと銀行に預金しています。
地域金融機関は、私たちが預けた預金を、資金ニーズのある事業者へ「貸出」又は「有価証券」で運用することで、お金を稼いでいます
しかし、オーバーバンクと言われる厳しい競争環境の中、新たな貸出先を発掘するのは困難なうえ、お金を貸しても低い金利しか取ることができません
そのため、利回りの高い運用対象として、J-REIT、私募REIT、上場投資信託(ETF)などのファンド商品(投資信託)が人気となっています。
日銀が2019年4月に公表した「金融システムレポート」には、地銀・信金において投資信託(私募REITを含む)の運用残高が急拡大している状況が鮮明に描かれています
出所:日本銀行 金融システムレポート(2019年4月号)
②決算対策
投資信託にも、J-REIT、私募REIT、ETF といろいろありますが、地域金融機関の決算対策の観点からは、私募REITが最も魅力的と映ります。
ポイント1 業務純益に算入されるか否か
まず、地域金融機関が意識する財務指標として「業務純益」という、銀行の本業からの稼ぎを表す指標があります。
じつは、株式等の売却益は、業務純益には算入されません。
このため、株価指数連動型のETFなどは、地域金融機関の決算対策として魅力がありません。
他方、J-REITや私募REITといった不動産投資信託の売却益は、業務純益に参入されるため、地域金融機関から好まれます。
ポイント2 時価の変動性
次に、J-REITと私募REITの時価の変動が焦点となってきます。
前述のとおり、J-REITの時価(市場価格)は大きく変動しますが、私募REITの時価(基準価額)はあまり変動しません。
自己資本を安定させ、かつ将来の売却に向けて安定した含み益を生む投資をしたい地域金融機関は、J-REITより私募REITを選好します。
さらに、私募REITは地域金融機関のリスク管理上、投資パフォーマンスを良く見せる効果があります。
ポイント3 リスク管理対策
金融機関は、有価証券投資のリスクを管理するため、VAR(Vallue At Risk)といった手法で投資のパフォーマンスを測定しています。
VARは、投資の過去の時価変動データを統計的に分析して、現在の投資から生じる、将来の損失可能性を予測します。
VARから算出される将来の損失可能性を低くしたい地域金融機関は、J-REITよりも時価変動の小さい私募REITを選好します。
このように、純粋に経済合理的な理由ではなく、業界特有ルール(顧客の置かれた状況)に合わせた最適化を図る目的で、私募REITが選ばれているのです
私募REITから学ぶ不動産私募ファンドのマーケティング
商品性ではJ-REITに劣るものの、私募REITのマーケティングが成功しているのは事実。
この事実は、商品を出発点とする「プロダクト・アウト」(=商品の作り手が良いと思うものを作る)ではなく、顧客を出発点とする「マーケット・イン」(=顧客がよいと思うものを作る)のマーケティングが有効であることを示唆しています。
例えば、私募REITが人気だからといって、個人投資家向けに売ることは意味がありません。
なぜなら、私募REITを買う機関投資家と同じニーズ(決算対策、リスク管理対策)は、個人投資家には存在しないからです。
いま注目を浴びる、「個人投資家向け不動産クラウドファンディング」のマーケティングでは、個人投資家のニーズから出発して、魅力的な商品に仕立てるべく、「仕入」「加工」「販売」の各段階において、創意工夫を凝らすことが重要となります
どんな商品が個人投資家に好まれるのか
カピバラ好き行政書士がクライアントに提案している、個人投資家の心を掴むファンド商品の例として・・・
(1) 「レバレッジ」 による “高利回り” 商品
(2) 「優先劣後」 による “DEBT(負債)仕立て” 商品
(3) 「短期運用」 による “高流動性” 商品
(4) 「ESG/SDGs」 による “共感型” 商品
(5) 「任意組合」 による “相続税対策” 商品
(6) 「SPV活用」による事業者から”倒産隔離”された商品
などが挙げられます。
法規制との関係でいうと、これらの商品はすべて「不動産特定共同事業」又は「小規模不動産特定共同事業」のライセンス取得で組成できるようになります
これらファンド商品の組成方法の詳細は、8/29のセミナーで詳しく解説します
マーケット・インのアプローチで、個人投資家に「ワオ!」と言わせる不動産クラウドファンディング商品を一緒に創っていきましょう