11月も下旬となり、朝晩の冷え込みが厳しくなってまいりました
「旅館業や宿泊事業を行っている会社をM&A(売却)したいが、
宿泊事業そのものは対象外としたいので、営業ライセンスだけ別会社へ移したい」
というご相談を受けました
MAは相手方との条件交渉やスケジュール管理が極めて重要。
論点漏れなくスムーズに進められるよう、慎重にプランを作成・実行していきましょう
そのためには、初期段階での法的整理と施設の適法性の確認が極めて重要です。
本日は、宿泊施設(旅館業施設/民泊〈住宅宿泊事業〉)を
会社分割で営業権を譲渡したい場合の実務ポイントをわかりやすく解説します
1.旅館業施設を会社分割で譲渡・承継する場合
旅館業には「営業者の地位」を譲渡・承継する制度が整っています。
しかし、注意すべき論点があります。
「前提条件=施設が許可条件を満たして適法に営業されていること」
非常に重要であるものの、実務ではよく見落とされる
営業者の地位を譲渡する前提として、
旅館業施設が“現状で許可条件を満たして”適法に営業できる状態であることが必要です。
具体的には:
- 旅館業許可の名義が最新(代表者変更届等が適切に出されているか)
- 消防計画・消防設備点検(機器点検・総合点検)の実施と報告が最新か
- 旅館業の施設の構造・収容定員などが許可内容と整合しているか
- その他法令点検・構造設備の変更届が必要なまま放置されていないか
不備があれば“営業者地位の譲渡手続き前”に対応して、問題点を解消おくことが鉄則です。
(不備があると、手続き後でなければ承継が認められません。)
承継方法は2パターン
(A)会社分割に伴う営業者地位の承継承認(3条の3)
(B)会社分割前に営業者地位を譲渡(3条の2)
実務上のおすすめは B:事前に譲渡しておく
その理由は:
- 会社分割日を待つ必要がなく、スケジュール調整が容易
- 分割登記と旅館業手続きを並行できる
- 行政との協議が簡潔で審査がスムーズ
- M&Aスキームに柔軟に対応できる
実務のほとんどは、
①営業者地位の譲渡承認を先に取り
②承継会社が営業者となってから会社分割へ進む
という流れが最も安定しています。
〈法的根拠〉
- 旅館業法 第3条の2(営業者地位の譲渡承認)
- 旅館業法 第3条の3(合併・分割に伴う承継承認)
効力発生前に保健所の事前承認が必要な点は共通です。

2.住宅宿泊事業(民泊)の営業権を譲渡・承継したい場合
住宅宿泊事業は、旅館業とは異なり、届出の承継制度がありません。
結論:会社分割による承継は不可
承継会社で新規に届出を行う必要があり、届出番号も新しく発行されます。
実務上の注意点
- OTA(Airbnb、Booking.com等)の掲載情報修正が必須
- 稼働中の物件は「事業開始可能日」との整合を要調整
- 届出審査に日数がかかる自治体もあり、空白期間に注意
3.旅館業と民泊の会社分割は制度が根本的に異なる
旅館業施設(ホテル・簡易宿所等)
- 営業者地位の承継制度あり
- 事前に地位譲渡を済ませるのが最もスムーズ
- ただし前提として、施設が最新の状態で許可条件を満たして適法に営業していることの確認が必須
住宅宿泊事業(民泊)
- 届出の承継制度なし
- 承継会社で新規届出が必要
- OTA変更やスケジュール調整も忘れずに
旅館業や民泊の承継方法は、相手方があるものですので、論点の洗い出しと実効性のあるプラン作成・実行が重要です。手続きには予想外のトラブルもつきものです。スケジュールは余裕をもって行うようにしましょう。
保健所からの承認は、会社分割や営業権の譲渡の効力発生前に受ける必要があります。
また、事前の適法性の確認を怠ると、承継手続きが止まる・M&Aが成立しない
といった重大なリスクもあるため、早めの行政協議・現地確認が成功のポイントです。
本記事が、宿泊事業の再編をご検討中の皆さまの参考になれば幸いです。
個別案件に応じた最適なスキームや事前の適法性チェックも承っていますので、どうぞ気軽にご相談ください🤗 |