不特法事業者は『廃業』すれば償還義務や監督から逃れられるのか? 不特法「みなし事業者」と投資家保護の仕組み

最近、運営事業者が、突然、「不動産特定共同事業を廃業」したケースがあります。

しかも、不動産クラウドファンディングで償還遅延が発生している最中での廃業!

これを受け、出資を行った投資家からは、

「廃業してしまったら、出資金は返ってこないのか?」

「許可がなくなったら、行政はもう監督してくれないのか!?」

という不安の声が聞こえてきます。

 

果たして、不特法事業者は『廃業』すれば償還義務や行政監督から逃れられるのでしょうか?

 

結論をお伝えすると、事業者が廃業しても、既に締結されているファンドの契約関係や償還義務が消滅することはありません。

また、引き続き行政の監督に服します。

本日は、不動産特定共同事業法における、「みなし事業者」の仕組みを説明します。

 

廃業すると不特法の許可はどうなる?

不動産特定共同事業法第11条では、不動産特定共同事業者が事業を廃止した場合、30日以内に許可行政庁へ届出を行うこととされています。

 

そして、事業を廃止した場合には、受けていた不動産特定共同事業の許可は効力を失います。

したがって、廃業後は新たなファンドを募集したり、新しい不動産特定共同事業契約を締結したりすることはできません。

 

しかし、ここで問題が生じます。

例えば、10本のファンドを運用している事業者が、そのうち数本で償還遅延を起こした状態で廃業したとします。

「廃業したので、あとは知りません」

と言われたら、投資家は困ります。

 

そこで登場するのが、不動産特定共同事業法第65条です。

廃業後も「みなし事業者」として業界に残る

法第65条は、許可が失効した事業者についても、既に締結されている不動産特定共同事業契約に基づく業務を終了させるため、一定の範囲で引き続き不動産特定共同事業者として取り扱う仕組みを設けています。

 

いわゆる「みなし事業者」です。

この制度は、事業者を救済するための制度ではありません。

 

国土交通省の監督指針では、第65条の「業務を結了する目的」について、

”私法上の契約を確実に履行させるためのものであり、事業参加者の利益を損なうものであってはならない”

と明確に説明されています。

つまり、「廃業したから返済義務がなくなる」のではなく、「残っている契約をきちんと終わらせるために、廃業後も不特法の世界に残される」という制度です。

 

償還遅延が発生していても適正処理の義務は残る

 

この点は、既に償還遅延が発生している場合でも基本的に変わりません。

例えば、本来2026年7月に償還する予定だったファンドが、資金不足などによって償還できなかったとします。

 

その後、事業者が不動産特定共同事業を廃業したとしても、既に発生している契約上の権利義務までなくなるわけではありません。

事業者は、みなし事業者として、

・対象不動産を売却する

・売却代金を回収する

・ファンドの損益を確定する

・投資家に分配・償還する

といった既存契約を終了させるための業務を続ける必要があります。

 

逆にいえば、廃業届は、償還遅延をリセットする手段ではありません。

「廃業届が受理された」=返済計画が行政に認められたものではなく、たとえ事業者から、「廃業届は行政に受理されています」と説明されたとしても、廃業の届出が受理されたことと、その後に事業者が提示する返済計画を行政庁が承認したことは別問題です。

 

例えば、2億円を超える償還債務について、「年間600万円ずつ35年にわたって返済します」という計画を事業者が提示したとしても、廃業届が受理されているからといって、その返済条件を行政庁が認めたというものではありません。

 

特に、その返済計画では完済まで数十年を要するような場合には、本当にこれが第65条のいう業務の結了」といえるのかという別の問題が生じます。

 

国土交通省が第65条について、契約を確実に履行させ、事業参加者の利益を損なってはならないと説明している以上、極端な長期返済計画については、

 

・なぜそれだけの期間が必要なのか?

・現在どれだけの資産があるのか?

・対象不動産はどうなったのか?

・不動産の売却代金はどこにあるのか?

・他の債権者にはどのような支払いをしているのか?

・より早く償還する方法は本当にないのか?

 

といった状況を検討する必要があります。

単に「毎月これだけしか払えないので、完済は数十年後です」と提示するだけでは、適切な業務の結了といえるのか疑問が生じるでしょう。

行政庁の監督は廃業後も重要

こうしたケースでは、許可行政庁に相談することが重要です。

不特法には、事業参加者に損害を与えた場合や、そのおそれが大きい場合などに必要な指示を行う制度があります。

また、監督行政庁は、必要に応じて事業者の業務や財産について報告を求め、さらに詳しく確認することができます。

 

国土交通省の監督指針でも、問題が認められる場合には法第40条に基づく報告徴収を行い、その内容を検証したうえで、事業参加者保護の観点から重大な問題があれば行政処分を検討するという監督の流れが示されています。

 

したがって、償還遅延中の事業者が廃業し、その後に著しく長期の返済計画を提示しているような場合には、許可行政庁に、「この返済計画は、第65条にいう適切な業務の結了といえるのでしょうか」と相談することが考えられます。

 

単に「投資資金が戻ってこない」という民事上の相談だけではなく、「みなし事業者による業務の結了が、投資家保護の観点から適切に行われているか」という不特法上の監督問題として相談するのがポイントです。

投資家側で特に注意したい「返済条件の変更」

もう一つ注意したいのが、事業者から長期の分割返済案への同意を求められた場合です。廃業してみなし事業者になったからといって、事業者が当然に、当初の償還期限を数十年先に変更できるわけではありません。

 

当初の契約上の償還期限、契約期間の延長条項、清算方法などを確認したうえで、その分割返済案に同意することで既存の権利関係がどう変わるのかを確認する必要があります。

少なくとも、

「少額の返済を一度受け取ったら、数十年間の返済計画に同意したことになるのか」

「遅延損害金などはどうなるのか」

「途中で会社の資産状況が悪化した場合はどうなるのか」

といった点は確認しておいた方がよいでしょう。

廃業は「終わり」ではなく、むしろ結了処理の始まり

事業者が廃業すると、「会社が逃げてしまった」という印象を持つかもしれません。

しかし、不特法上は少し違います。廃業によって新しいファンドを募集することはできなくなりますが、既存のファンドについては、みなし事業者として契約を最後まで処理することが求められます。

 

そして、その結了処理は何でもよいわけではありません。国土交通省が明示しているとおり、その目的は「私法上の契約を確実に履行させること」であり、事業参加者の利益を損なうものであってはなりません。

 

したがって、償還遅延が発生している事業者が廃業し、その後に極端な長期返済計画を提示している場合には、「廃業したから仕方がない」ではなく、「その後の結了処理が不特法上適切なのか」という視点で見ることが大切です。

 

ここは、今後、不動産クラウドファンディング市場が拡大する中で、投資家保護を考えるうえでも重要な論点になってくると思います。

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