こんにちは、カピバラ好き行政書士の石井くるみです
12月に入りいよいよ冬本番、コートが手放せない季節となりました。
寒さが苦手なカピバラ好き行政書士にとっては、厳しい季節の到来です
みなさまも、急な寒さで体調を崩されぬよう、防寒対策をいたしましょう
ふるさと納税+ファンド投資
さて、前回のブログでご紹介した「ふるさと納税+ファンド投資」スキームは、多くの読者の皆様からコメントが寄せられました
しかし、「ふるさと納税制度」を活用した不動産(不特法)ファンドスキームの実現可能性について詳細な考察を行った結果、かなり技術的でミクロな内容となっていまいました(反省)
そこで改めて、大局的(マクロ)な観点から、ふるさと納税+ファンド投資の「意義」と「制度設計」について考えたいと思います
ふるさと納税+ファンド投資の意義① ふるさと納税の「金融効果」
「ふるさと納税+ファンド投資」の仕組みが私たちにもたらす最も大きな価値・・・
それは、ファンド持分を返礼品とすることで、ふるさと納税が「金融効果」を持ち、経済的/社会的な波及効果が生じることです
金融効果や波及効果とは、どういうことなのか、その考え方を説明しましょう
現在のふるさと納税では、寄付で集まったお金の一部(30%以下)から、地域の特産品などがすぐに返礼されます。
例えば、ふるさと納税をの返礼品として、A商店の鮮魚セットや、B農場の野菜詰合せを指定した場合、生産者(漁師さんや農家さん)と地場産品を受け取る寄付者にのみ経済的便益が発生します。
他方で、新しい「ふるさと納税+ファンド投資」スキームでは、寄付金の一部がしばらくの間はファンド出資となることで「金融効果」を持ち、地域の空き家等の再生資金として役立てられることとなります。
そして、この「金融効果」が、地域社会に大きな経済的/社会的な波及効果をもたらします。
例えば、ふるさと納税の返礼品としてのファンド資金が、空き家を農村カフェに改装に使われると・・・
●空き家を農村カフェに改装するためのリノベーション工事の発生による経済効果(施工会社に)
●農村カフェを運営するための家具や食器といった備品類の調達や、地元食材の仕入による経済効果(家具職人、食材の生産者に)
●農村カフェを地域外から観光客や、地域住民が利用することによる経済効果/社会効果
●農村カフェが正社員やアルバイト等の地域の雇用を生むことによる経済効果/社会効果(地域住民、料理人に)
などが生まれます
さらに、ファンドの運用期間の終了後は、寄付者にポイントが付与されて地場産品の返礼が行われるので、地場産品の生産者と寄付者は、従前のふるさと納税の仕組みと同様の経済的便益を受けることができます。
このように、ふるさと納税+ファンド投資の「金融効果」により、地域に大きな「経済的/社会的な波及効果」が追加で生じます
なお、この「金融効果」は、既存の金融システムでは資金が行き渡っていない「地方の空き家等の融資困難不動産」にこそ向けられるべきものといえます。
ふるさと納税+ファンド投資の意義② 地方の融資困難不動産への「リスクマネー供給効果」
次に、なぜ「ふるさと納税×ファンド」スキームで集めた資金は、地方の空き家等の遊休資産の再生資金に向けられるべきなのか
ここでは、その必要性を考えてみましょう
現状の不動産の資金調達状況を、「地方 vs 都市」と「融資可 vs 融資困難」の観点から4つに分けると、次の図表のように整理されます
地方の不動産であっても、例えば、鉄筋コンクリート造り(RC)の1棟マンションであれば、不動産担保融資による資金調達が可能です
これが都市の融資可能不動産になると、不動産担保融資に加えて、REITなどのファンドによる資金調達も可能となってきます
他方、建築基準法に適合していない古民家等の融資困難物件では、融資以外の資金調達手段を検討する必要があります
この点、例えば、京都の伝統家屋「京町家」であれば、宿泊施設として利活用することで高い収益性が見込めたため、コロナ前は京町家ホテルを対象するFTKファンドが多く組成・販売されました。
つまり、都市の融資困難物件は、利活用の見込みがあれば、通常の市場機能に基づくFTKファンドによる資金調達が可能です
しかし、地方の古民家等の融資困難物件は、たとえ利活用の見込みがあっても、FTKファンドを募集しても、なかなか資金が集まりづらいのが実情です
その理由は、「地方不動産リスクプレミアムが上乗せされる」ことにあると考えられます。
地方不動産に要求されるリスクプレミアム
リスクプレミアムとは何か・・・・イメージを膨らませてみましょう。
不動産ファンドのパフォーマンス(運用成績)は、投資対象である不動産の良し悪し(特に出口での売却価格)に左右されます。
例えば、東京、京都、大阪といった全国的に有名な地域の不動産を対象とするファンドであれば、
「東京の○○区の土地だったら資産価値が安定してそう」
「京都の○○地域は修学旅行で行ったことがある」
「大阪の○○区は昔は治安が悪かったけれど、最近は再開発が進んで街が整備されてきたと聞く」
とイメージが湧くので、比較的安心して投資の意思決定を行うことができます
しかし、知名度が低い、地方の不動産を対象とするファンドの場合は、
「○○県の××町って、知らないなあ。どんな場所なんだろう」
「地方は人口減少で、将来的に不動産価値が下がるのではないか」
といったイメージが先行しがちとなります
この結果、
「リスクが高そうだから、高い利回りがもらえないと割に合わない」
と感じる投資家が、不動産ファンドに求める利回りの上乗せ分が「地方不動産リスクプレミアム」です。
カピバラ好き行政書士も参加した第3回検討会(まちづくりWG)において、他の委員の方から、次のようなご発言がありました。
「地方不動産プレミアムの問題を解消するには、地方不動産の価値を適切に評価できる投資家-すなわち、その地域に土地勘のある地域住民を主な投資家とする地域ファンディングの仕組みが検討に値する」
「そもそもFTKの制度設計を考えるうえで、既存の不動産金融のシステム(不動産担保融資、REIT、その他の私募ファンドスキーム等)がカバーできていない領域を特定し、どうFTKを活用すればその領域に必要な資金を行き渡らせることができるかを考えることが肝要である」
大局的なものごとの見方に、目から鱗が落ち、たいへん勉強になりました
私なりに既存の不動産金融システムを分析すると・・・
●地方・都市を問わず、融資可能な不動産については、金融機関による不動産担保融資による十分な資金供給が図られている。
●「都市の融資困難不動産」については、市場機能に基づくFTK(すなわち、既存の仕組み)により、一定の資金供給が図られている。
●しかし、「地方の融資困難不動産」については、地方プレミアムの問題により必要な資金が供給されておらず、FTKを活用した新しい「地域ファンディング」の仕組みを構築することが課題となる。
というのが現状であると思います。
そして、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームこそが、地方プレミアムの問題を解消し、地方の空き家等に再生資金を供給する「地域ファンディング」の最有力候補であると感じています
ファンドに対する投資家の「期待のちがい」が大きなポイント!
なぜ、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームが、地方プレミアムの問題を解消できるのか
それは、「ふるさと納税+ファンド投資」は、そもそもの制度趣旨が「ふるさと応援」であるとともに、寄付者に付与されるファンド持分は「寄付の対価に該当しない程度の軽微なお礼の品」と位置付けられることから、リスク許容度の高いマネーであると考えられるためです。
すなわち、ふるさと納税の寄付により、地方不動産を投資対象とするファンド持分を受け取る寄付者(投資家)は、
「○○県の××町を応援したい気持ちから、寄付をしたいと思った」
「××町では空き家が増加しているというから、寄付金の一部が空き家の再生資金として使われると嬉しい」
「もともと返礼品としてのファンド持分は自治体の善意で付与されたものなので、運用成果にはそんなに期待しない」
「もしファンド持分の価値がゼロになっても、もともと、ふるさと納税の寄付金負担は2,000円だから、気にしないようにしよう」
「もし運用がうまくいって、ポイントが少し増えて戻ってきたら儲けもの、くらいに思っておこう」
「今度の夏休みは××町を訪れて、ファンドの投資対象の農村カフェに行ってみよう」
といった期待(気持ち)で寄付を行うことが期待されます
これは、投資家が自分のお金を、通常のFTKファンドに対して投資しようとする際における期待(要求)、
すなわち、
「××町では空き家が増加しているというから、5年後は不動産価値が大きく下落するリスクがある」
「リスクが高い分、より高い利回りじゃないと投資できないな」
といったものとは大きく異なるものと考えられます
人々の「ふるさとを応援したい」という気持ちが、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームを通じて、地方の融資困難不動産という「資金調達の空白領域」にリスクマネーの供給をもたらし、地方で急増する空き家を再生するための資金として活用される・・・
そんな「地域ファンディング」が実現できたら素敵だなと思います
ふるさと納税+ファンド投資の意義③ 地方不動産再生の好事例の「横展開効果」
さらに、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームが「全国的な地域ファンディング」の仕組みになり得る要素として、地方不動産再生の好事例の「横展開効果」が期待される点が挙げられます。
第3回FTK活用検討会では、FTKを活用した地方不動産再生がなかなか普及しない原因の1つとして、「各地域で行われている好事例の情報共有の仕組みが乏しく、横展開が進まない」点が挙げられていました
FTKファンドの仕組みは難解で複雑なもの
守らなくてはならないルールや学ぶべき知識も多く、ファンドの組成は、プロジェクト単位で行われることが一般的です。
ある地域のプロジェクトに優秀な人材が集まり、ファンドの組成に成功したとしても、
プロジェクトが終わるとチームが解散し、人材ごと、ノウハウが散逸してしまうといった課題があります
この課題を解決するための手段が「好事例の横展開」です。
好事例のノウハウが文書等に残って共有(横展開)されれば、新たにファンドを組成しようとする人々の力強い助けとなります。
この点、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームには、好事例の横展開を容易とする、次のような特徴があります。
①「ふるさと納税」の活用により、FTKファンド組成件数が増加し、横展開すべき好事例が増える
②「ふるさと納税」という、全国で普及している、画一的な制度がスキームの土台となっている
③ファンド持分の返礼品指定や寄付の募集等において、自治体(市区町村)が積極的にスキームに関与する
順番に説明いたします
①好事例の増加により、ノウハウが蓄積、全国で共有される!
好事例の横展開が進まない最大原因は、地方不動産を対象とするFTKファンドの組成件数が少なく、そもそも横展開すべき事例数が少ないことにあります。
この点、年間寄付額:約5,000億円(返礼品額:約1,500億円)という規模のふるさと納税を活用することで、地方不動産を対象とするFTKファンドの組成件数が増加することで、次のような好循環が起きることが期待されます。
ふるさと納税の活用により、地方不動産を対象とするFTKファンドの組成件数が増加
他の地域と共有すべき好事例が増加
好事例の横展開により、地方不動産を対象とするFTKファンドの組成件数がさらに増加
他の地域と共有すべき好事例がさらに増加
この好循環が続く
②スキームの定型化・標準化により、ファンド経験がなくとも取組みやすくなる!
好事例の普及が進まない原因の1つに、FTKという制度自体がマイナーであり、かつFTKのスキームも「匿名組合型 vs 任意組合型」や「優先劣後の有無」など複雑なパターンがあり、ファンド経験がないと実務に対応できない点が挙げられます。
この点、「ふるさと納税」という、全国で普及している、画一的な制度をFTKスキームの土台とすることで、スキームの定型化・標準化が可能になると考えられます。
「ふるさと納税+ファンド投資」の制度を大きくスケールさせるためには、スキームのカスタマイズの余地を減らし、「定型化・標準化」を推し進めることが重要であると考えます。
ビジネスでは、他社との差別化を図るため、スキームのカスタマイズを行うことが重要となりますが、それとは真逆の発想となります。
ふるさと納税という画一的な土台の上に、シンプルで分かりやすい定型的・標準的なFTKファンドスキームを乗せれば、ファンド事業の経験がない事業者や自治体であっても取り組みやすくなり、横展開が図られることが期待されます
③自治体間の横展開が期待できる!
横展開が進まないもう1つの原因として、好事例の普及活動が一部のFTK事業者による「民間の横展開」に委ねられ、市区町村等による「自治体間の横展開」が不足している点が挙げられます。
この点、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームでは、ファンド持分の返礼品指定や寄付の募集等において、市区町村が積極的にFTKに関与することで、自治体にFTKのノウハウが蓄積され、「自治体間の好事例の横展開」が加速することが期待されます
FTKファンドを作るといっても、事業計画・収支計画を立て、組合などのビークルを含むスキームを設計し、契約書類を一通り揃え、関連法令を遵守して募集活動を行っていく・・・そんなファンド組成の仕組みを理解するのにも、なかなかのエネルギーを要します
そもそも行政の仕事とはあまり関係ないので、自治体の中でFTKの存在すら知らない方がほとんど・・・・・というのが現状です
しかし、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームが導入されることで、
自治体職員の方(例:ふるさと納税担当者や、空き家再生を担当するまちづくり担当者)にとってFTKへの取り組みが業務の一部となる。
業務を通じてFTKの認知と理解が進む。
実際にふるさと納税でFTKファンドを扱うことで、自治体内部にFTKのノウハウが蓄積される。
蓄積されたノウハウが、自治体間の横展開により、他の市区町村にも共有される。
といった、自治体間の好事例の横展開が促進されることが期待されます
「民」と「官」、双方での横展開が進めば、これまで認知度の低かったFTKの取り組みが、一躍メジャーとなることも夢ではないでしょう
ふるさと納税+ファンド投資の「意義」のまとめ
以上のとおり、「ふるさと納税+ファンド投資」スキームには、
①ふるさと納税に「金融機能」を持たせることで、自治体に現状よりも大きな経済的・社会的波及効果をもたらす
②ふるさと応援を目的とした寄付であることを背景に、地方の空き家等の融資困難不動産に個人の「リスクマネー」を供給して空き家等の再生と利活用を促す
③ふるさと納税という全国に普及された画一的な仕組みをベースにすることで、地方不動産再生の好事例を増加させ、その好事例を「民間」と「自治体」の双方における「横展開」を加速させる
といった意義があると考えられます
しかし、どんなに意義のある取り組みであっても、どうやって実行していくか(Howの視点)がなければ、普及させることは困難です。
そこで、次回のブログでは、「ふるさと納税+ファンド投資」を普及させるための、マクロ的な「制度設計」について考えていこうと思います