本日は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」、通称「犯収法」の2020年4月施行規則改正について解説します。
インターネットや郵送など、「非対面」での本人確認を行っている不動産ファンド事業の実務にかかわる重要な改正
具体的には、「非対面」の本人確認書類の範囲が厳格化され、運転免許証のコピ―のような「写し」の場合は、2以上の本人確認資料の送付を受けることが必要となります。
以下、犯収法の目的や現状の手続きの取り扱いなど詳細説明しております。
おさらいも兼ねて、ぜひ、最後までご覧ください
平成 20 年 3 月 1 日から全面施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」において、宅地建物取引業者や不動産特定共同事業者が「特定事業者」として位置付けられ、 特定取引を行う際の顧客等の本人確認及び本人確認記録の作成・保存、取引記録の作成・保存並びに「疑わしい取引」に関する行政庁への届出が義務付けられています。
ここでは、インターネットを通じて不動産ファンドを販売する不動産特定共同事業者が、通常採用している本人確認方法を前提として、特に重要な部分を絞って話を進めたいと思います。
1.犯収法の目的とは
犯罪収益移転防止法は、確認記録や取引記録の作成・保存等により、犯罪収益の追跡の可能性を確保し、 疑わしい取引の届出によって犯罪収益の移転防止・早期発見・剥奪を図ることを目的としています。
2.宅建業者・不動産特定共同事業者が行うべきこと
犯収法は、特定事業者による顧客等の取引時確認、取引記録等の作成・保存、 疑わしい取引の届出等の措置を義務付けています。特定事業者は、金融機関等をはじめ 46 業種が定められており、じつは行政書士も該当します
もちろん、宅建業者や不動産特定共同事業者も特定事業者に位置付けられています(法 2 条 2 項 39 号)。
特定事業者は、業種別に定められた特定業務に係る特定取引について、取引時確認等の措置が義務付けられています。
特定事業者が講ずべき措置は、以下の3点です。
① 取引時確認(法 4 条)
② 確認記録・取引記録の作成・保存(法 6 条・ 7 条)
③ 疑わしい取引の届出(法 8 条)
3.取引時確認とは?
特定事業者は、一定の取引に関し、顧客やその代表者等について、運転免許証の提示を受けるなどの方法で、取引時確認を行わなければなりません(法4条1項)。確認すべき事項は、相手方である顧客が個人or法人かにより異なります。
【顧客が個人の場合】
*本人特定事項(氏名、住居、生年月日)
*取引を行う目的
*職業
【顧客が法人の場合】
*本人特定事項(名称、本店又は主たる事務所の所在地)
*実質的支配者※の確認(その者の本人特定事項) ※株式会社等で 25%を超える議決権を直接または間接に有する者(自然人)等
*取引を行う目的
*事業の内容
取引を行っているのが個人の代理人や、法人の取引担当者等の場合は、その者の本人特定事項も確認する必要があります
重要な改正論点である「非対面」の取引時確認の方法の前に、まずは基本となる「対面」での本人取引時確認方法を見ていきます
4.対面での本人特定事項の確認
個人の本人特定事項の確認は、運転免許証、在留カード、マイナンバーカード、 パスポート、各種健康保険証、国民年金手帳、印鑑登録証明書、戸籍謄本・抄本、住民票の写しなどの本人確認書類の確認によって行います。
これらの本人確認書類は、運転免許証のような「本人の顔写真がついているもの」と、健康保険証のような「本人の顔写真がついていないもの」など本人の真正性についてレベル感が違います
例えば、窓口来訪者から運転免許証の提示を受けた場合、運転免許証に写っている人物の写真と、提示している人物が同一人物であるかは容易に判別可能です。
しかし、窓口来訪者から健康保険証の提示を受けた場合、保険証には顔写真がついていないので、保険証記載の人物と提示している人物が同一であるか確認できません。
そこで、対面取引の場合は、健康保険証など顔写真がない本人確認書類の提示を受けるだけでは足らず、次の対応が必要です。
ⅰ)本人確認書類に記載されている顧客の住居宛に取引に係る文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する
ⅱ)提示を受けた本人確認書類以外の本人確認書類(前ページ1②又は③の本人確認書類に限 る。)又は補完書類の提示を受ける
ⅲ)提示を受けた本人確認書類以外の本人確認書類又は補完書類の送付を受ける
5.非対面での本人特定事項の確認 ~2020年3月末まで
インターネット、郵送での取引等についてはどうでしょうか
(じつは、平成30年11月30日より、完全にオンラインで本人確認が完結する方法が認められるようになりました。
しかし、特定事業者が提供する特別なソフトウェアが必要であり、一般的に環境整備のハードルが高いので、ここでは省略します。
詳細については、こちらの金融庁のWebサイトをご参照ください。)
非対面取引での顧客の本人特定事項の確認は、主に「顧客から本人確認書類又はその写しの送付を受けるとともに、 本人確認書類に記載されている顧客の住居宛に取引に係る文書を書留郵便等により、転送不要郵便物等として送付する方法」により行われていました。
Step1 顧客から本人確認書類の送付を受ける
(紙媒体、特定事業者が提供するソフトウェアを使用しないで撮影・送信 された本人確認書類の画像情報、PDFデータ及びFAXも)
Step2 顧客の住所に書留郵便等により転送不要郵便を送付し、届けばOK
しかし、現行の非対面の本人確認において偽造書類を利用した不正等が行われている状況を踏まえ、確認方法が来年の4月から厳格化されます
6.非対面での本人特定事項の確認 2020年4月~
2020年4月より、顧客から本人確認書類の送付を受け顧客宛に書留郵便物等により転送不要郵便等として送付する確認方法に関する改正や、本人限定受取郵便に用いることのできる本人確認書類(顔写真付きのものに限られる)に関する改正が行われます。(6条1項1号チ~ル)
今までは、送付を受ける本人確認書類(又はその写し)について種類の限定がありませんでしたが、今後は「住民票の写し(住民票の写しのコピーではない)」や「印鑑登録証明書」などの原本であれば1つでも本人確認書類として認められますが、原本ではなく写しの場合は2以上本人確認書類の送付を受けなければ認められなくなります。
顧客から本人確認書類の送付を受けた後の、簡易書留郵便物等による転送不要郵便等の送付による確認は従来の通りです。
たとえば、送付を本人確認書類が運転免許証の場合、今まではそれでOKだったのが、
2020年4月からは足らなくなり、現在住居の記載がある本人確認書類をもう1つ受け取らなくてはいけません。
7.いつまでに取引時確認を済ませる必要があるのか
取引時確認は必ず契約を締結するまでに終わらせないといけないでしょうか。
特定事業者は、「特定取引を行うに際して」は取引時確認を行う必要があり、「特定取引を行うに際して」とは、契約の締結に際して行うことが原則と考えられます
しかし、継続的取引の場合には、必ずしも契約締結時までに取引時確認を終わらせる必要はなく、 契約締結時から合理的期間内に取引時確認を行うことも認められます。 なお、どの程度の期間であれば合理的期間と呼べるかについては、取引の性質ごとに合理的期間の判断も変わるため、一概に基準を示すことはできず、個別取引ごとに判断することになるでしょう。
8.2020年4月以降、すでに取引時確認を行った顧客も再確認が必要
確認方法が厳格化されて・・・・・すでに確認済の顧客についても再度確認が必要になるのでしょうか
次の要件全てを満たす場合には、再確認は必要ありません。
①過去に取引時確認が行われており、当該確認記録が作成、保存されている。
②次のいずれかの方法又は場合により、既に取引時確認を行った顧客であるこ とを確認している。
ア.預貯金通帳など顧客が確認記録に記録されている者と同一であることを示す書類その他の物の提示又は送付を受ける
イ.顧客しか知り得ない事項など顧客が確認記録に記録されている者と同一であることを示す事項の申告を受ける
ウ.顧客又は取引の任に当たる者と面識がある場合など顧客が確認記録に記録されている者と同一であることが明らかである
③ 今回の取引について、次の事項を記録し、7年間保存すること。
ア.口座番号その他の顧客の確認記録を検索するための事項
イ.取引の日付
ウ.取引の種類
④ 今回の取引が、「なりすましの疑いのある取引」、「取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客の取引」、「疑わしい取引」、「同種の取引の態様 と著しく異なる態様で行われる取引」に該当しない。
平成 20 年 3 月 1 日から全面施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」は度重なる改正が行われていますが、クラウドファンディングなど非対面の取引が増加する中、その重要性はますます高まっています。
インターネットを通じて不動産ファンドを販売する不動産特定共同事業者のみなさまも、しっかりと内容を把握して実務に活かしてください