以前のブログ「建築基準法の改正案…戸建住宅の簡易宿所化の基準が「100㎡・2階建」から「200㎡・3階建」に!」でも解説したとおり、平成30年建築基準法改正により、3階建・200㎡未満の建物について、旅館・ホテル等(簡易宿所を含む)に用途変更した場合の耐火建築物要求を除外する規制緩和が行われました。
土地が狭い東京など都心部においては、3階建ての住宅が多くあります。3階建のホテルを建築する場合は、耐火建築物であることが求められますが、3階建ての住宅を建築する場合は、耐火建築物とする必要がありません(一般的に)
このような前提条件のもと、民泊ビジネスの登場により、住宅をホテル(宿泊施設)に用途変更しようとするケースが増加。
しかし、既存建築物では、従来の耐火建築物要求への対応が難しく、用途変更を断念せざるを得ませんでした。
長年の問題だったこの論点について、ついに、法改正により緩和が行われることとなりました。
しかし、3階建ての戸建住宅で旅館業法に基づく許可を受けようとすると、建築基準法施行令の改正により新設された『竪穴区画』の設置が実務上のハードルとなるケースが多々見受けられます。
建築基準法の改正で、なにが規制緩和され、なにが変わったのか?
結局、3階建ての戸建住宅の旅館業を取得するには何が必要なのか?
既存住宅の旅館業(民泊)活用に関する法制度の課題に関する論説を、都市住宅学会が発行する『都市住宅学』第108号(2020年冬号)に寄稿いたしました☆
論説のタイトルは『既存住宅の民泊活用に関する法制度-規制緩和と課題』です。
論説のうち、読者の皆様の関心が高いと思われる『竪穴区画』と『遡及適用』に関する記述の一部をご紹介します
4.平成30年建築基準法改正の概要
(2)小規模建築物に対する竪穴区画の適用
竪穴区画とは、火災時の煙突効果による火煙の伝播を防止する目的で設けられる防火区画の一つである。主要部を準耐火構造等とした建築物(例:耐火建築物)であって地階又は3階以上の階に居室があるものについては、竪穴部分(吹抜きとなっている部分、階段部分の部分等をいう。)と当該竪穴以外の部分を、一定の基準に基づく防火設備等で区画しなければならない。ただし、階数が3以下で延べ面積200㎡以内の戸建住宅等については、その区画が免除される(建築基準法施行令112条10項2号)。
従前、3階に居室がある旅館・ホテルは例外なく耐火建築物とされていたことから、竪穴区画の設置も当然に義務付けられてきた。しかし、前述の小規模建築物における耐火建築物要求の緩和を受け、主要部が準耐火構造等ではない3階建ての建築物が旅館・ホテルの用途に供され得ることとなった。平成30年建築基準法改正では、従前は想定されていなかったこのような建築物について、利用者の避難に要する時間を考慮した安全措置として、竪穴区画の設置義務が新設された(表3)。
表3 旅館・ホテルにおける竪穴区画の適用
旅館・ホテルの構造 改正前 改正後 主要構造部が 準耐火構造等
従前から必要 (令112条10項)
3階建て200㎡未満 (上記のものを除く)
存在し 得ない
新設・必要 (令112条12項)
(注)日本橋くるみ行政書士事務所作成
3階に居室を有する旅館・ホテルの用に供する小規模建築物(主要構造部を準耐火構造等としたものを除く)については、竪穴部分と竪穴部分以外の部分を間仕切壁又は戸(ただし、ふすまや障子等、火災時の接炎によって直ちに火災が貫通するおそれのあるものは除く)で区画しなければならない(建築基準法施行令112条12項)。
当該「間仕切壁」又は「戸」について、ふすまや障子等が除かれる以外に特段の防炎性能は要求されていないものの、そもそも既存の住宅は竪穴区画を設けることを想定せずに建築されていることが通常であるため、新たに竪穴部分とそれ以外の部分を区画することが困難なケースや、技術的には区画することができても一定規模の工事を要し、コスト・ベネフィットの観点から工事を断念するケースが多いのが実情である。なお、次に示すとおり、用途変更の確認申請を不要とする対象面積の上限が200㎡に引き上げられたことにより、小規模建築物を旅館・ホテルに転用する際の建築基準法令の適合性確保(竪穴区画の設置を含む)は、建築主が自らの責任において判断することとなった。
5.規制緩和の課題 (2)用途変更時に遡及適用される規定の適用範囲
既存建築物の用途変更にあたっては、原則として、当該建築物を変更後の用途に適用される建築基準法令の現行基準に適合させることが要求される。国住指第4718号は、用途変更の対象とする建築物に適用される規定を次の2つに分類している。
①用途変更前の用途には適用されないが、用途変更後の用途には適用されることとなる規定
②既存不適格建築物を用途変更する場合に、法第87条3項に基づき遡及適用されることとなる規定
これら2つに「③既存不適格建築物を用途変更する場合に、法第87条3項に基づき遡及適用されないこととなる規定」を加えると、用途変更時に適用される規定は、図表5のとおり整理される。
図表5 用途変更時に適用される規定の整理
変更前の用途に適用 されている規定か?
No →
①に該当 現行基準が適用される
↓Yes 法87条3項の 対象か?
Yes →
②に該当(遡及あり) 現行基準が適用される
↓No ③に該当(遡及なし) 建築時の基準が適用される
建築基準法3条2項の規定により、既存建築物に対して建築後に行われた法令改正により生じた現行基準は不遡及となるが、同法87条3項の規定により、同項に列挙された一部の規定[1]については、用途変更時に現行基準が遡及適用される。他方、同項に列挙されていない規定については、現行基準は引き続き不遡及となる。ただし、引き続き不遡及となる規定は、用途変更をしようとする建築物において現に建築基準法3条2項の規定による不遡及が適用されているものに限られ、変更後の用途に新たに適用されることとなる規定は不遡及の対象外となり現行基準が適用される。
住宅から旅館・ホテルへの用途変更を例にとると、平成30年建築基準法改正によって新設された小規模建築物に適用される竪穴区画の規定(建築基準法施行令112条12項)は住宅としての用途には適用されないが、変更後の旅館・ホテル用途には適用されることとなるため①に該当し、現行基準が適用される。建築基準法87条3項には同法36条に定める防火区画(竪穴区画を含む)に関する規定は列挙されていないが、そもそも用途変更前の用途に適用されていない規定には不遡及の適用はない点に注意する必要がある