長い梅雨がようやく明けたと思ったら、うだるような暑さが到来熱中症対策の水分補給には冷えたスイカがいちばんです
先週は、国土交通省「第2回不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討」が開催されました。
また、「不動産ファンドの法規制と事業戦略 ~5つのファンド活用法~」セミナーが終了。次回は9月8日(火)の「区分所有不動産共同投資契約」を予定しています。
そのほか名古屋に出張などバタバタと忙しい1週間でした。独自の緊急事態宣言が出された名古屋のぴよリンは、マスク着用
不動産特定共同事業における「約款規制」
さて、本日は不動産特定共同事業(FTK)において、もっとも重要な存在である「約款」作成についてお話しします
不動産特定共同事業法には「約款」の規制があり、不特事業者は許可申請に際して、内容が政令で定める基準に適合するFTK契約約款を登録申請書類に添付する必要があります(法7条)。
そして、不特業者が特例投資家以外の投資家と不特契約の締結をするときは、許可(認可)を受けた不特契約約款に基づいてしなければならない(法23条)ため、企画するファンド組成の実現にむけた約款の作成は、申請上の重要なポイントです
国交省のHPには、標準的な内容のモデル約款が公表されているため、利用をおすすめしますが、カピバラ事務所には様々な内容のカスタマイズの相談が寄せられます
中でもよくあるのが、次のようなご相談です。
「建物を新築する開発プロジェクトを対象とするFTKファンドを組成したいが、建築期間中は収入がないため、優先劣後構造を採用すると、投資家に分配することができない。竣工後の収入で分配できない期間の埋め合わせをできるようにしたい」
「大規模修繕の資金をFTKファンドで募集したい。リノベーション期間中はほとんど収益ないが、工事完了後は資産価値が大幅に上がり、十分な賃料収入と売却益(キャピタルゲイン)が見込めるので、利益をならして分配できないか」
「対象不動産が、税法上の耐用年数が短い中古木造の建築物なので、運用期間中は減価償却費が大きくて利益が出ず、したがって優先劣後ファンドだと利益分配を行うことができない。ファンド終了時に計上が見込まれる利益(キャピタルゲイン)をもって、過去に支払うことができなかった予定分配金をまとめて払うことはできないか」
不動産特定共同事業は、REITとは異なり、開発資金や大規模修繕の費用を募集できるという利点があります。
(特例事業の場合、宅地の造成、建物の建築、その他対象不動産の価格10%相当額を超える金額の建物の修繕や模様替えを実施する場合は特例投資家しか事業参加ができないという制限があります。)
開発型案件は、建物が未完成で事業計画に不安定な要素が大きい(工事の遅延や費用増大する可能性がある)ため、既存不動産を取得してそのまま運用する事業よりもリスクが伴いますが、そのリスクを考慮した上で高いリターンを志向する投資家も存在します
開発型案件で、当初は収益が見込めなくとも、完成までの期間が短く、すぐに高価格で売却する見通しが立っているファンド(運用期間が1年未満)であれば、優先劣後構造を採用してもキャピタルゲインを原資として十分な分配することが可能とであるため、大きな問題はありません。
しかし、1年を超える中長期のプロジェクトで、将来的には大きな収益発生が見込めるものの、運用当初は当分収益が上がらない見通しの場合は期中の分配が難しく、優先劣後ファンドでは、匿名組合契約の相手方(投資家)に利回りを提示することができないという問題が浮上します
問題を解決する1つの方法として、優先劣後構造を採用せず、投資家に直接エクイティ資金を拠出してもらうということも考えられますが、
①劣後出資が存在しないと投資家のリスクが高まるため資金が集まりにくいのではないかという懸念がある。
②キャピタルゲインの多くは事業者側が受け取りたいという意向が存在する
などといった理由で、やはり優先劣後ファンドにしたいというケースが多々あります。
そこで検討に値するのが、今回のブログのテーマである 『累積条項』 です
累積条項を説明する前に、まずはFTKファンドの基本的な損益計算ルールをを見ていきましょう
FTKファンドの損益計算ルール
ファンドの損益は、計算期間ごと(例えば1年毎)に計算されます。
匿名組合・優先劣後型の標準モデル約款においては、損失については経過済計算期間において負担した損失を翌期以降の利益により充当しますが、利益の分配については、経過済計算期間において上限まで分配しなかったものを充当する内容にはなっていません。
例えば、優先出資の利益分配の上限が4%で3年間のファンドにおいて、すべての計算期間で4%以上の利益が出た場合
優先出資への分配額 1年目4%、2年目4%、3年目4%
となります。ところが、
1年目と2年目は利益ゼロ、3年目が20%の利益が出た場合
優先出資への分配額は 1年目0%、2年目0%、3年目4%となります
このような場合に
「開発リスクを許容するぶんの開発利益を投資家に分配したい」
「収益発生のタイミングは安定していないが、結果的に3年間で4%の分配を行いたい」
というニーズが発生します。
このような場合は、約款のカスタマイズが必要となります。
有効な方法として、
約款に累積条項を追加する。
利益が多く発生した場合に過去の分配についてキャッチアップする条項を追加する。
FTK事業から生じる利益を賃貸利益と売却利益に区別して異なる分配比率を設定する。
などが考えられます
さて、お待ちかねの「累積条項」についてご説明します。
累積条項とは
累積条項とは、優先劣後ファンドの優先出資の分配について、過去に支払うことができなかった予定分配金を、その後に発生した利益をもって支払うこととする契約条件のことをいいます。
例えば、開発型ファンドで、優先出資1000を予定利回り5%で募集した場合に、第1期は利益0であったため、建物建築中のため分配金を支払うことができなかったとします。
その場合、第1期に支払うことができなかった予定分配金50は、第2期以降に持ち越され、例えばファンドの利益が第2期に70、第3期に110出た場合には、次のような分配が行われます。
第1期 ファンドの利益 0 優先出資への利益分配 0 (次年度への持越し 50)
第2期 ファンドの利益 70 優先出資への利益分配 70 (次年度への持越し 30)
第3期 ファンドの利益110 優先出資への利益分配 80 (次年度への持越し 0) 劣後出資への利益分配 30
「ある計算期間に大きな利益が出た場合で、経過済計算期間に利益分配の上限まで分配できていないときはその経過計算期間の利益分配の上限まで累積的に分配する」という内容を追加しておけば、たくさん利益が発生した時に遡って分配することができますね
このように、標準約款を基本に組成したいファンド商品の内容に合わせてカスタマイズすることで、商品魅力度を高めることが可能です。
約款の内容はファンドの事業計画・収支計画に大きな影響があります。
事業内容により、投資家への分配金の計算方法や元本の償還など、様々に考慮すべき論点があります。
「こんなファンド商品を設計したい」というご相談がありましたら、ぜひお聞かせください