オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの『特殊詐欺』
令和元年のその認知件数は16,836件、被害総額は301億円にも上ると言われています
許されるべきことではありません…犯人を捕まえなくては
振込がなされた銀行口座の名義人を捕まえればいいのでは・・・・と思いますが、話はそう単純ではありません。
なぜなら、犯罪に使われる銀行口座の多くは、犯罪者が他人から買い取ったり、他人に作らせたりした『他人名義口座』や、偽造した本人確認書類等で作った『架空名義口座』であり、銀行口座の名義人≠犯罪者となるからです。
詐欺で奪われた(振込後の)お金はどうなる?
さて、詐欺により他人名義口座にお金が振り込まれた後、犯罪組織が次に取る行動は何でしょうか
犯罪組織は、他人名義口座が凍結される前に、素早く現金を引き出します
他の銀行口座に振込をしてしまうと、その履歴から足がついてしまうため、ATM等から引き出して、現金化するのです。
最近では、銀行の口座凍結の対応が素早くなってきたため、被害者に振込をさせる代わりに、被害者に直接現金を送付させたり、被害者のキャッシュカードを「すり替えて」入手し、被害者の銀行口座から現金を直接引き出すようなケースも増加しています。
なにはともあれ、特殊詐欺等の被害に合ったお金は、いったんは『現金』となり、犯罪組織の手元に留め置かれるのが通常です。
引き出された現金はどうなる??・・・・マネロンの手口
しかし、多額の現金はかさばるため持ち運びや保管が困難です。
そこで犯罪組織は、次のような手段を考えます。
① 銀行口座に預金する
② 有価証券を買う
③ 不動産を買う
④ 宝石・貴金属を買う
犯罪で得た資金が、様々な預金口座を移動したり、有価証券や宝石に姿を変えたりする。
そうして、資金の出どころが分からなくすることを資金洗浄(マネーロンダリング)と呼びます
マネーロンダリングに成功すると、犯罪組織は綺麗になったお金を、自由に使うことができるようになります。
すると、その資金を元手に、さらに大規模な犯罪やテロが起きてしまうリスクが高まります。
マネーロンダリングを防ぐため、その手段に係わる様々な事業者を規制する法律が『犯罪による収益の移転防止に関する法律』(略して『犯収法』)です
犯収法の規制を受ける事業者(特定事業者)とは?
前述のとおり、犯罪で得た資金は、預金に加え、有価証券、不動産、宝石・貴金属等、高価なモノに姿を変えやすい。
そこで、犯収法は、次のような事業者を『特定事業者』と定め、法の規制対象としています。
・ 銀行(法2条2項1号) … 預金を取り扱うため
・ 金融商品取引業者(21号) … 有価証券を取り扱うため
・ 不動産特定共同事業者(26号) … 不特法に基づくファンド商品(有価証券と同等のものを扱うため
・ 宅地建物取引業者(40号) … 不動産を扱うため
・ 宝石商、貴金属商(41号) … 宝石、貴金属を扱うため
その他にもレンタルオフィス/バーチャルオフィス事業者(42号)や、行政書士(45条)など、全 47 の業種が掲げられています。
なお、バーチャルオフィス事業者や行政書士が犯収法の規制対象となるのは、犯罪組織による「会社設立」に関わることがあるためです。
『特定事業者』に掲げられた業種を営む事業者は、犯収法に基づく様々な手続を行い、その結果を記録として残す義務を負います
特定事業者が行うべき『手続』と、保存すべき『記録』とは?
このブログの読者である『宅建業者』や『不動産特定共同事業者』の方々は特定事業者であり、犯収法の適用対象です。
きっと、「犯収法」「マネロン」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。
しかし、犯収法は用語の定義が難しく手続も複雑で、何となくのイメージはつくものの、具体的にいつのタイミングで、どのような手続が必要になるのか正確に理解するのが難しいという相談をよくいただきます
度重なる法改正・厳格化で複雑性は増すばかり。
犯収法の全体像を理解するため、3月19日に開催するセミナー『不動産特定共同事業(FTK)法 コンプライアンス&ファンド組成実務』で用いる、不動産特定共同事業者にフォーカスを当てて作成したスライドを見てみましょう
このスライドを基に、特定事業者が守るべき、犯収法のルールの全体像をつかんでいきましょう。
(1) 犯収法の対象となる『業務』と『取引』
犯収法は、全47種の特定事業者のビジネスの性質に応じて、法の規制対象とする『特定業務』と、特定業務の中でも特に厳しい手続きを求める『特定取引』を定めています。
不動産特定共同事業の場合、特定業務には不特法2条4項各号に掲げる不動産特定共同事業(いわゆる1号~4号事業)が、特定取引には不動産特定共同事業契約の締結又はその代理若しくは媒介(すなわち、ファンド商品の購入)が指定されています(不特法施行令6条10号、7条1項1号ワ)
(2) 特定取引に対して行う『取引時確認』と『確認記録』の保存
マネーロンダリングに利用される危険が高い特定取引について、特定事業者は、『取引時確認』(特定取引を行おうとする顧客等の本人確認等の手続)を行うことが義務付けられます。
不動産特定共同事業者(自己募集を行う第1号事業者)はファンド商品の購入の申込みを受ける際に、不動産特定共同事業者(2号事業者、4号事業者)は、ファンド商品の販売の仲介を行う際に、取引時確認を行わなければなりません
そして、特定事業者は、取引時確認を行った結果を『確認記録』として記録し、運転免許証等の『本人確認書類』とともに、7年間保存しなければなりません。
(3) 『ハイリスク取引』の識別と、追加手続の実施
特定取引の中でも特にマネーロンダリングの危険性が高いと考えられる次の取引は、『ハイリスク取引』とされます。
・ なりすましの疑いがある取引
・ 取引時確認に係る事項(本人確認書類の提出等)に関して偽っていた疑いがある顧客等との取引
・ マネーロンダリング対策が不十分である国(イラン、北朝鮮の2国)に居住又は所在する顧客等との取引
・ 外国の政府要人(外国PEPsと呼ばれる)
ハイリスク取引を識別した場合、特定事業者は、①本人確認書類をもう1つ追加取得するとともに、②取引金額が200万円を超える場合は当該顧客の資産及び財産の状況の確認を行うことが義務付けられています。
不動産特定共同事業者は、ハイリスク取引を適切に識別するとともに、識別したハイリスク取引に対して漏れなく追加手続を行う態勢を整備し、運用しなければなりません。
(4) 疑わしい取引の届出
特定事業者は、特定取引に対する取引時確認や、ハイリスク取引に対する追加手続を実施等した結果、マネーロンダリングの疑いがあると判断した取引(『疑わしい取引』)について、当該取引を行政庁に届け出ることが義務付けられます。
不動産特定共同事業者は、疑わしい取引を適切に判断し、漏れなく行政庁に届け出る態勢を整備し、運用しなければなりません。
疑わしい取引は一律に定義できるものではないため、次のような視点に基づき判断することになります。
① 他の顧客と取引態様が異なること(例:ファンド商品を申し込む他の顧客は銀行振込なのに、その顧客は多額の現金取引を要求する)
② 犯罪収益移転危険度調査書において注意を要するとされた国・地域に居住・所在する顧客等との取引(イラン、北朝鮮)
③ 顧客の取引名義が架空名義又は借名であるとの疑いが生じた取引
マネーロンダリング対策を行う行政庁の観点からは、疑わしい取引の届出が、いちばん重要なの手続となります。
不動産特定共同事業に従事する実務担当者の方々は、
「普通には考えられない多額の現金を持ち込んで、ファンド商品を購入したいと言われたけれど、普通なら現金じゃなくて振込むはずだなあ。妙に焦っているような感じもあったし・・・・」
といった感覚を磨いて、疑わしい取引をしっかりと届出するよう心掛けましょう!
「この顧客は怪しい」
行政庁へ届出
犯罪者を捕獲
でめでたし、めでたし
不特事業者と行政の迅速な連携でマネーロンダリングを防ぐことができる理想的なパターンです
なお、2020年3月6日付の日経新聞では、2019年における疑わしい取引の届出件数は過去最多になったとのこと
マネロン疑い、過去最多、昨年44万件。
2020/03/06 日本経済新聞 朝刊
警察庁が5日、公表したまとめによると、犯罪収益やマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがあるとして2019年に金融機関などが国に届け出た取引は44万492件で、前年と比べ2万3027件増え、過去最多を更新した。19年に全国の警察が摘発した資金洗浄の事件(537件)も過去最多だった。
海外組織が日本で犯罪収益を引き出す事件が続発し、対策の強化が求められている。国際組織「金融活動作業部会(FATF)」が日本の対策状況を19年に実地審査し、結果を今夏に公表する。
取引情報を届け出た機関別では「預金取扱機関」が36万6973件で8割を占めた。仮想通貨(暗号資産)事業者は5996件(1・4%)で18年から1100件減。警察が摘発した資金洗浄事件で、違法な収益の元となった犯罪は窃盗が206件で最も多く詐欺(167件)などだった。暴力団組員らが関与した資金洗浄事件は58件あり、摘発全体の1割を占めた。
金融機関を中心に、マネロン対策が強化されていることが伺われますね
(5) 『取引記録等』の作成・保存
少し話が戻りますが、犯収法により指定された特定業務に係る取引のうち、財産の移転を伴う等の一定のものについては『取引記録等』を作成し、7年間保存しなければなりません。
取引記録等には、次の事項を記載します。
・ 口座番号その他の顧客等の確認記録を検索するための事項
・ 取引の日付
・ 取引の種類(例:契約締結、代理、媒介、解除、承継、譲渡など)
・ 取引に係る財産の価額
・ 財産移転を伴う取引にあっては、当該取引に係る移転元又は移転先の名義その他の移転元又は移転先を特定するに足りる事項 等
特定業務は、特定取引よりも広い概念となりますので、取引記録等の作成対象を網羅的に把握することが重要です。
不動産特定共同事業者の場合、特定業務である不特1号~4号に係る取引のうち、財産の移転を伴う次のようなものが、取引記録等の作成対象になると考えられます
① 不動産特定共同事業契約の締結
② 不動産特定共同事業契約の締結の代理又は媒介
③ 不動産特定共同事業契約の解除
④ 不動産特定共同事業契約の承継
⑤ 不動産特定共同事業契約の譲渡の代理又は媒介
これらのうち、①②は「特定取引」に該当するため、取引記録等の記載要件を満たすように「確認記録」を作成することで、取引記録等の作成・保存義務を果たすことができます。
しかし、③④⑤のように特定取引に該当しない取引については確認記録は作成されないため、取引記録等を網羅的に作成し、保存する態勢を整え、運用することが必要となります。
『確認記録』、『取引記録等』の作成と保存の意義
マネーロンダリング対策は、疑わしい取引の届出をすれば十分と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、敵も間抜けではありません
取引を行うときには疑わしくなかった場合でも、その後に顧客等が犯罪組織の一員だったことが判明することも想定されます。
「そうか、あの人が怪しい人だったんだ・・・
確かにあの時は運転免許証も確認したけど、記録してないから忘れちゃった・・・なんという名前だったかなあ」
これでは、取引時の確認を行った意味がありません
そこで、取引時確認において、資金を持ち込む人の公的な身分証明書などで取引者の正確な本人確認等(個人の場合は氏名や住所・生年月日などの本人特定事項、取引目的、職業)を行い、その結果を『確認記録』としてしっかり保存することが重要となります。
同じことが、特定業務に係る取引について作成する『取引記録等』の保存についてもいえます。
宅建業者、不特事業者の皆様は、自社の犯収法への対応状況は十分でしょうか
本人確認の方法が細かく定められていることや、法人・個人の区別など、細かい手続きにばかり目が行くと、混乱してしまいやすい犯収法ですが、そもそもの趣旨や目的からアプローチすることで、必要な手続きや社内体制を構築しやすいのではないかと思います
3月19日に開催するセミナーでは、犯収法の全体像からシステムを用いた実務対応まで、不特事業(FTK)に特化した解説を行います
不動産ファンドの社内体制構築から具体的な組成・運営までの実務講座!
【第7回】不動産クラウドファンディング講座 不動産特定共同事業(FTK)法/コンプライアンス&ファンド組成実務
また、4月1日より厳格化される非対面時における本人確認」について解説している記事はこちらです
令和2年4月施行の犯収法施行規則の改正☆「非対面取引時の本人確認の方法」の厳格化!!
ぜひ、皆様も参考にして下さい