早く梅雨明けして、カラッとした夏の気候になるのが待ち遠しいですね
ところで、この1~2ヶ月の間で、当事務所では、不動産特定共同事業の許認可/コンサルティングのご相談が増えています。
そんな中、よく受ける質問が
「いま、自社で所有している不動産を、第1号事業でファンド化して資金を集めれば、集めたお金は自由に使えるんですよね?」
といったもの。
状況によってはYESなのですが、多くの場合はNOとお答えしています。
YES/NOを分けるポイント。それは・・・
ファンドの対象にする予定の(自社が所有する)不動産で、金融機関から借入を受けているか否かです
本ブログでは、不動産特定共同事業と「借入」の関係を掘り下げていこうと思います
第1号事業とは
不動産特定共同事業のうち、事業者が自ら資金を集める(SPCを使わない)ものを、「第1号事業」といいます。
事業者が自ら資金を集めるため、集めたお金は自由に使えると思ってしまいがちです。
例えば、自社で所有している不動産(時価3億円)を担保に供して、2億円の借入をしているとしましょう。
この不動産を対象として、第1号事業で投資家からファンド資金を2億円集めると、
借入2億円+ファンド2億円=合計4億円
の資金調達ができ、新たにファンドで集めた2億円を自由に使える・・・かというと、そうではありません
なぜなら、第1号事業を営む不特事業者は、ファンド財産と自己の固有財産を、しっかり分けて管理しなければならないからです。
第1号事業における財産の管理とは
関連するモデル約款の規定を見てみましょう
小規模第1号事業・匿名組合契約型モデル約款第4条第3項
(対象不動産等の運用) 本事業者は、対象不動産を本事業の目的以外のために担保に提供し、又は出資の目的と してはならない。 【施行令第 6 条第 1 項第 4 号、施行規則第 11 条第 2 項第 4 号ホ】
約款で言う「本事業」とは、投資家からファンド資金を集めて行う第1号事業のことを指します。
ポイントは、不特事業者にとって、第1号事業と、自己の固有の事業(例:宅建業)は別の事業であり、それぞれの財産をしっかり分けて管理しなければならない点です。
実務的には、第1号を営む不特事業者は、次のとおり帳簿を2つに分けて、財産を管理することになります。
・第1号事業のファンドごとに記帳する「匿名組合勘定」
・不特事業者の固有の事業について記帳する「固有の勘定」
ここで、不特事業者が、対象不動産を担保に提供して借入をしている状態で、第1号事業のファンドを組成するケースを考えましょう。
投資家からお金を集めてファンドを組成すると、対象不動産は、「匿名組合勘定」の財産となります。
この「匿名組合勘定」に入った対象不動産を担保に、第1号事業者が「固有の勘定」で自ら借入を続けることは、「対象不動産を本事業の目的以外のために担保に提供」することに該当するため、約款(及びその根拠となる法令)に違反します
匿名組合勘定での借入(ファンド内借入)は可能?
ただし、対象不動産を本事業(第1号事業)の目的のために担保に提供し、借入をすることは可能です。
換言すると、「匿名組合勘定」に入っている対象不動産を担保として、「匿名組合勘定」の中で借入をすることができます
いま一度、「固有の勘定」で所有する不動産(時価3億円)を担保に供して、「固有の勘定」で2億円の借入をしているケースを考えましょう。
当該不動産を、第1号事業の目的として「匿名組合勘定」に移すとともに、2億円の借入も「匿名組合勘定」に移すことはOKです。
この場合、第1号事業で投資家から集められるファンド資金は、時価3億円-借入2億円=1億円が上限となります
すなわち、第1号事業で資金調達できる資金は、不動産の時価から借入額を差し引いた、「自己資金部分」ということになります
ファンド内借入をするためのポイント(3つ)
匿名組合勘定で借入を行う際には、特に次の3点に注意しましょう
①匿名組合勘定における借入に対応した約款を作成する
…モデル約款は、借入を前提にしていないのでカスタマイズが必要です
②カスタマイズした約款を認可申請する
…約款は監督官庁の認可を受けなければなりません(法9条1項2号)
③金融機関と事前確認する
…担保に提供している不動産を対象にファンド組成することは、借入契約等に抵触する可能性があります
資金効率を高めてファンド事業を軌道に乗せるためには、対象不動産を担保とする借入(レバレッジ)は不可欠といえます。
本ブログを参考にいただき、不特法の許可/登録申請の段階から、レバレッジを可能とするスキーム構築を意識した業務方法書や約款の作り込みを行っていきましょう