この9月より、全国賃貸住宅新聞において、新連載『不動産クラウドファンディング 事業化のポイント』が始まりました。記念すべき第1回のテーマは、「個人向け不動産投資ビジネスの大転換」です
この1~2年の間に、不動産を対象としたファンド(匿名組合や任意組合)を組成し、その持分を小口化してインターネットで個人投資家に販売する「不動産クラウドファンディング」が注目を集めています
具体例を2つ紹介します
(1)GA technologiesが組成した「Renosyキャピタル重視型第1号ファンド」
・・・東京都品川区のワンルームマンションを投資対象とした同ファンドは、想定利回り8%、運用期間3ヶ月、最低投資金額1万円という条件で1,540万円を募集したところ、募集額の約12倍である18,561万円の応募があり抽選販売となりました
(2)ブリッジ・シー・キャピタルが組成した「第1号浅草ホテルファンド」
東京スカイツリーや浅草が徒歩圏内にある「ホテルアマネク浅草吾妻橋スカイ」を投資対象とした同ファンドは、想定利回り4.2%、運用期間2年、最小投資金額1万円という条件で募集したところ、8.8億円という比較的多額の案件であったにもかかわらず、約3週間で完売となりました
不動産クラウドファンディングの人気は、個人の不動産投資運用ニーズの強さを表すとともに、個人向けの不動産投資ビジネスが大きな転換期を迎えていることを示唆しています
不動産投資を取り巻く環境の変化
2013年の日本銀行によるマイナス金利政策導入後、金融機関は個人向けの不動産担保融資(アパートローン)に積極的となり、会社員を始めとするアマチュアの個人投資家(いわゆる“サラリーマン大家”)を対象に、物件金額の満額又はそれ以上の借入を組ませて投資不動産を販売する不動産ビジネスが急成長しました
しかし、①株式会社スマートデイズを始めとする複数のシェアハウス運営会社の破綻、②シェアハウス向けの不正融資を発端としたスルガ銀行に対する行政処分、③融資資料の改ざんが発覚した東証一部上場の(株)TATERUに対する行政処分といった問題が次々と発生し、これらを受けて金融機関がアパートローンに消極姿勢となった結果、個人に借入を行わせて投資不動産を販売するビジネスモデルは継続困難な状況となっています
ファンドを通じた不動産投資のメリット
個人が実物不動産を直接購入する従来型の不動産投資と比べ、不動産クラウドファンディング等による「ファンド」を通じた新しい不動産投資には、次の3つのメリットがあります。
図表:実物不動産投資とファンド不動産投資の比較
比較項目 |
実物不動産の直接投資 |
ファンドを通じた不動産投資 |
(1)投資に要する資金 |
多額となり、通常借入が必要 |
余裕資金の範囲内で購入可能 |
(2)投資家が負うリスク |
投資額以上のリスクを負う |
リスクは投資額に限定される |
(3)投資機会の提供 |
資力・能力のある1投資家 |
多数の投資家 |
出所:日本橋くるみ行政書士事務所作成
メリット(1) 少額投資が可能
実物不動産を購入するには多額の資金が必要となり、自己資金で足りない分は借入により資金調達が必要となりますが、ファンド投資であれば、投資家は余裕資金の範囲内でファンド持分を購入できます
メリット(2) リスクの限定
借入をして実物不動産を購入すると、投資家は自己資金を超える損失を被るリスクを負いますが、ファンド投資(匿名組合型)であれば、投資家が被り得る損失額は、その出資額に限定することができます
メリット(3) 幅広い投資機会の提供
金融機関の融資厳格化を受け、実物不動産を販売できるのは、物件の所有リスクに見合う資力と知識・経験を持った一人の投資家に限られますが、ファンド投資であれば、一棟物件を購入できるほどの資力や知識・経験を有しない多数の個人投資家に対して、リスクを抑えた不動産投資の機会を提供することが可能となります
個人投資家に多額の借金を負わせて投資用物件を販売するビジネスモデルは過去のものとなり、これからはインターネットでファンド持分を購入した投資家のために、宅建業者を始めとするプロ事業者が、物件の選定・運営管理・売却までを一貫して行う新しいビジネスモデルが主流となるでしょう
今後の連載では、個人投資家に対して健全な不動産投資の機会を提供する「不動産クラウドファンディング」を事業化するためのポイントを解説していきます。
投資家にとっても、不動産事業者にとってもメリットが大きい不動産の小口化・証券化毎月第3週連載ですので、新聞をお手に取っていただけると嬉しいです
10月10日開催予定の「不動産特定共同事業ファンドの『法律』と『会計』実務セミナー』の参加者も募集しております
ライセンス取得後のファンドビジネスの実務において重要な『法律』と『会計』をテーマとする実務セミナーの構成は次のとおりです
1.不動産ファンド『法律』の基礎知識
✓不動産クラウドファンディング法規制の全体像
✓金融商品取引法と不動産特定共同事業法の概要
2.ファンド『ビジネス』の基礎知識・・・なぜファンドを組成するのか?
✓ファンドを組成するメリット(レバレッジ効果)
✓ファンド組成に株式会社や合同会社が使われない理由(二重課税の回避)
✓ベンチマークとしての”J-REIT”
3.不動産特定共同事業法に基づくファンドスキーム
✓地域金融機関向けスーパープロ限定スキーム(適格特例投資家限定事業)
✓相続対策型NK(任意組合)スキーム(不特第1号)
✓短期・高利回り商品スキーム(小規模不特第1号)
✓倒産隔離・完成物件取得型スキーム(不特第3号)
✓倒産隔離・物件開発型スキーム(小規模不特第2号)
4.不特法『1号ファンド』の会計実務
✓不特1号ファンドの会計処理―SPC型との違い
✓設例による会計処理の解説
ステップ① ファンド組成時の会計処理(社有物件のTK勘定への譲渡)
ステップ② ファンド運用時の会計処理(減価償却、優先/劣後分配)
ステップ③ ファンド償還時の会計処理(第三者に売却するケース)
ステップ③’ ファンド償還時の会計処理(事業者に売却するケース)
Zoomを活用することで遠方のお客様もライブでWebセミナーに参加可能となりました。
また、当事務所の顧問クライアント様は、従業員の方も含め、無料でWebセミナーに招待しますので、ぜひご活用ください